一方、死亡、心筋梗塞、脳卒中を合わせた発生率では、第四のプラセボ群では二四パーセントだったのに対して、第一のコレステロール降下剤のグループでは三パーセントと、大きく減りました。
ところが、第二の抗酸化物質のグループは二Iパーセントで、プラセボ群とあまり変わりがなく、第三の併用グループでも一四パーセントと、あまり変わりがないという結果でした。
つまり心筋梗塞や脳卒中の発生率は、コレステロール降下剤群では改善したけれど、抗酸化サプリメント群では改善しない。
両者を併用すると、かえってコレステロール降下剤の効果が弱められてしまうという、非常に意外な結果だったわけです。
このように、心臓病をおもなターゲットとした最近の臨床試験でも、抗酸化作用のあるビタミンやミネラルをサプリメントとして大量に投与しても、なかなか予防にはつながらないという結果がでています。
これら一連の臨床試験は、動脈硬化がある程度進んだハイリスク群を対象にしています。
ビタミン剤の投与期間も、せいぜい五年と比較的短期間です。
ですから、動脈硬化が生じる前の健康なときから、非常に長期にわたって飲み続けた場合には、心臓病予防効果かおる可能性が、ないとはいえません。
じっさい、そのような論争も行われています。
ただし、冠動脈疾患のハイリスク群、つまり動脈硬化がある程度進んでしまった人が、抗酸化ビタミン剤を数年間ぐらい飲んでも予防効果は期待できないことは、これらの研究でかなりはっきりしたといえます。
「抗酸化作用」は要注意 以上が、抗酸化物質のサプリメントと心臓病をめぐる、最近の研究の現状です。
テレビの健康番組などで、ビタミンやポリフェノールが頻繁に取り上げられます。
これらの物質が健康にいいという説明の一つとして、抗酸化作用が引き合いにだされます。
がんに関しては、活性酸素が細胞の遺伝子などを傷つけるのを防ぐとか、心臓病に関しては、LDLコレステロールを酸化変性から守って動脈硬化を防ぐという作用です。
このビタミンやポリフェノールの「抗酸化仮説」が、有力な仮説であるのは確かです。
今日でも、さまざまな研究が活発に行われています。
けれども、これらの栄養素をサプリメントとして飲めば、がんや心筋梗塞が予防できるかとなると、話はそう簡単ではありません。
むしろ最近では、否定的な研究があいついでいるわけです。
じっさい、米国の保健福祉省が二〇〇三年(平成一五年)六月に公表したガイドラインでは、がんや心臓病を予防する目的で、抗酸化作用のあるビタミンのサプリメントを飲むことについて、次のような結論をだしています。
●ビタミンA、ビタミンC、ビタミンEについては、サプリメントとして飲んだほうがよい か、飲まないほうがよいかを判断するだけの、十分な科学的根拠がない。
●βIカロテンについては、サプリメントとして飲んでも効果がなく、一部の人たち(喫煙 者)ではかえって有害になるので、飲まないほうがよい。
つまり、β‐カロテンのサプリメントの服用には反対するし、その他の抗酸化ビタミンについても十分な科学的根拠はないという結論が、日本の厚生労働省にあたる米国の政府機関の公式見解として示されているわけです。
ここまで説明してきたような研究の状況を考えれば、当然の結論といえるでしょう。
むやみにサプリメントに頼らない ビタミンやミネラルのサプリメントに効果があるかないかは、大規模で長期回の臨床試験をやって初めてわかることです。
ですから培養細胞や動物実験を使った基礎研究のデータで、ある物質に抗酸化作用かおるからといって、すぐにそれが健康にいいといってしまうことには、非常に問題があります。
テレビの健康番組などで、抗酸化作用があるとして紹介される目新しい食べ物や栄養素の大半は、こうした基礎研究レベルの話にすぎないことが多いので、注意が必要です。
結局、がん・心臓病・脳卒中の予防に関しては、まずは普段の食生活や、喫煙などの生活習慣に注意することが最優先です。
サプリメントによる効果は、いまのところそれほど期待できないし、常に安全とも限りません。
予防効果のあるサプリメントが、これからでてくる可能性もありますが、その場合でも、じっさいの人間集団を対象にした臨床試験を行って、効果を確かめることが必要です。
それまでのあいだは、サプリメントには頼らないほうがいいだろうということになります。
「安全なはずの健康食品」の害 続いて、健康食品の害について調べた、最近の米国の研究を紹介します。
英国の医学専門誌『ランセット』の二〇〇三年一月一一日号に報告された論文です。
この研究は、米国の中毒情報センターに寄せられた電話相談から、健康食品やサプリメントについての事例を分析したものです。
中毒情報センターというのは、薬や農薬、化学物質の中毒についての電話相談を、医師や市民から受けつけているところです。
一九九八年(平成一〇年)には健康食品についての相談事例が、全部で一四六六件ありました。
単純なビタミンなどのサプリメントに関する相談は、この研究では除外しています。
ビタミンサプリメント以外の健康食品についての相談が、一四六六件あったということです。
その健康食品の内訳をみると、ハープ製品のなかではマオウ(麻黄)、ガラナ、朝鮮人参、セントージョンズフートに関しての相談件数が多くみられました。
ハープ以外の製品ではミネラルの一種であるクロムと亜鉛、それからホルモンの一種であるメラトニンについての相談が多くありました。
相談者が健康食品を使う理由をみると、「病気の治療のため」が三五パーセントで、一番でした。
続いて、「ダイエットのため」が一四パーセント、「運動能力の向上(筋肉の増強など)」がI〇パーセント、「睡眠補助」がI〇パーセントでした。
全部で一四六六件の相談事例のうち、なんらかの症状があったものが七四一件(五一パーセント)。
症状があったもののうち、健康食品が原因で症状が生じた確率が五〇八Iセント以上だろうと判断されるものが四八九件、全体の三分の一でした。
健康食品が原因で症状が生じたと判断されるこの四八九件を、症状の程度で分類してみました。
そうすると、なんと死亡が四例(一パーセント)、人工呼吸器をつけることが必要となった呼吸不全などの重症が二八例(六パーセント)ありました。
さらに、けいれんなどの中等症が一一七例(二四パーセント)、それ以外の軽症が三四〇例(七〇パーセント)でした。
症状があったうちの約三〇パーセントは、死亡から中等症までの、非常に深刻な症状だったということです。
重症と中等症の具体的な内訳をみると、昏睡が一八件、けいれんが一三件、脳出血が一件、不整脈が一四件、心筋梗塞が二件、呼吸不全が一五件などでした。
こうした結果から、この研究グループは、少なくとも一部の健康食品には、深刻な有害作用をおよぼす可能性があると結論づけています。
健康食品は、行政的には「医薬品」ではなく「食品」に分類されているので、医薬品よりもゆるやかな規制しかされていません。
これは米国でも日本でもそうです。
けれども、こういう深刻な有害作用の危険性を考えると、現行の制度には問題があると研究グループは指摘しています。
そのうえで、健康食品の包括的な届け出制や、副作用の報告を義務づける監視の強化、あるいは副作用のでた商品についてはリコールを可能にするような条件整備などを、今後新たに導入する必要かおるという議論をしています。
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